THE NOVEMBERS Tour2022 – 歓喜天

THE NOVEMBERS Tour2022 – 歓喜天 – @Zepp Haneda 2022.07.11

 あまりにでっかいなにかに精神ぶん殴られてどうかしてしまったので、どうかしてしまったありのままを残しておく。演奏の技巧的な話や魅力あるレポートは他のところでいくらでも公開されているので、当日の様子を知りたい方はそちらを読んだ方がいいです。これはただの日記、チラシの裏にでも書いておけば十分なものをわざわざインターネットで全世界公開する愚かさよ。

 初めて訪れた Zepp Haneda。周囲はまだ開発途中で、ライブハウスといくつかの飲食店が入る駅ビルの他は何もない。すぐ隣は羽田空港で、環八と広大な草地の向こうに滑走路と飛行機、ターミナルビルが見える。それだけしかない。何もないので空が広い。雨でも気分の上がるNOVEMBERSのライブだが、清々しい夏空の下というのも悪くはないなと思った。入場を待つ人の真上を飛行機が轟音の尾を引きながら飛んでいく。なんだか不思議な気分だった。

 入場し、檸檬堂片手に(ワンドリンクで檸檬堂置いているライブハウスは初めてだった。好きなのでちょっと嬉しい)名作映画音楽のSEをぼんやり聞きながら開演を待つ。このツアーも川崎、仙台と観てきてこれで三公演目なので展開は知っているのだが、およそ二ヶ月間のツアーでどれだけ化けてきただろうと期待して待つ時間はそう長く感じない。川崎は新しいツアーをとにかく新鮮に受け止めたい気持ちで観、仙台はファイナルまでの間のおかわりのつもり…だったのだがこちらの体調が万全でなかったこともありただただ呑まれてしまい、…でこれがファイナル。名残惜しさを感じつつ、今日はすみずみまで噛みしめておきたい気持ちで待っていた。

 今でも19年の全感覚祭の夜に戻りたいと思っている。あれから数か月のうちに閉塞した空気が全てを飲み込んでいって、いまだに止まったままでいるように感じている。
 なぜ全感覚祭を思い出したかというと、あの日と同じくANGELSで始まった公演だったからだ。イントロの、天使が降りてきたような轟音が好きだ。NOVEMBERSの音が爆発する瞬間が好きだ。どれだけCDの再生音量を上げようとも、これだけはライブでしか出会えない。だから何度でも生音を浴びにいく。
 今回のツアーは歌詞の力が強い曲ばかりで、歌詞の一言、余白のひとつにまで深く聞き入ってしまう。私は今のNOVEMBERSが大好きだが、実は歌詞だけは十年かそれ以上前のものの方が好きだ。『きれいな海へ』『最近あなたの暮らしはどう』『GIFT』――その歌詞は古びないまま、今の小林祐介の力強いボーカルに支えられて益々光る。最近あなたの暮らしはどう、からのGIFTは思わず涙してしまう。いつだって胸がぐっとなる。このまま静かに消えてしまいたくなる。


ここから そこまで いまなら声が届く
スピーカーの向こう イヤフォンの匂い 届いてるかい

僕らは 皆 終わらないように 何度も夜を越えていくよ
いつまでも途中なんだね
まだ まだ 僕らは まだ まだ これから

広い世界で たくさんの物を見たい
僕らは次にいこう
君の心にそう伝えてくれ

『GIFT』


 GIFTの歌詞、こんなに強かったっけなあと思う。言葉は変わらないのに前より確かな存在感がある。それはきっと今の彼等が歌うからなのだろうと思う。インディーズ時代の壊れそうなまっすぐさは、今はもう前面には出てこない。しかしすっかり消えてしまったわけでも忘れ去ってしまったわけでもなく、ギターノイズやブレスの後ろにそっと秘められるようになっただけだ。その様が美しくて泣きそうになる。音もいいが、ライティングもとてもよかった。後ろから幾筋も差し込むまっすぐな白い光。写真に写り込んだフレアやゴーストのようだ。彼等の音楽には白が似合う。全ての色を内包した強い白だ。
 GIFTでもう泣いてるのにHallelujahでさらに泣く。GIFTでの涙はふっと落ちてくるものなのだが、Hallelujahのそれはありがとうの涙だ。不思議とこの曲はいつだってとても元気になれる。面倒なことはたくさんあるけどいいから幸せになろうぜ、と言ってもらえる気がする。いつだって「今」聴きたい曲だと感じる。

 泣いてばかりもいられない。いさせてくれない。Rainbowで世界ががらりと変わる。New Yorkでそれは揺るぎないものになる。かつてのライブでは想像もできなかった光景なのだが、小林祐介がギターを置いてハンドマイクで一歩前に進み出る瞬間を心待ちにしている。圧倒的なフロントマンがそこには居る。
 KANEDAのカバーからBAD DREAMに雪崩れ込む瞬間で毎回倒れそうになる。全てを忘れさせてくれるノイズがこんなにも心地いい。彼等の暴力的なまでの轟音は腹の底から笑って幸福になるために存在している。醒めたくない。致死量の音を浴びて死にたいと本気で思う。

 ラストのひとつ前、『いこうよ』。三公演観てきたが、この日のいこうよが一番だったと思う。強くて優しい。優しいから強い。なぜだか少し哀しい。


愛なき世界を 爆音で震わせる
それで何がかわる きみの何が
愛なき世界を 爆音で震わせる
きみの何かがかわる きみの中で

いこうよ いこうよ いこうよ いこうよ

『いこうよ』


 まだ見ぬ明日へいこうよ、ともとれるのだが、聴いているこちらの心の具合によっては天国にいざなってくれているようにもとれる。どちらにせよ前向きな気持ちで、向かう先は眩く白い光で満ちている。多分触ったら溶けるくらい熱いと思う。この日見えたのは天国の方だった。きっとそこは幸せな世界なのだろうなと思った。ライブの影響だけではないのだが、あの日からずっと希死念慮が抜けない。
 ラスト、新曲は優しい歌だった。昔の彼等に今の彼等が語りかけているようにも思えた。生まれる前の姿を少しだけ見せてもらった。これからどんな名前をもらって産み落とされるのか楽しみだ。
 
 彼等の向かう先を見てみたいと思う。コロナ前に戻らずとも、新しく眩い何かを見せてくれるのではないかと期待している。というわけで、11月のデビュー15周年ライブまではどうにか生き延びようと思う。