終 三月三拾日 - 2/3

 散り際の桜が雪のように舞う中、一人の教師がおろし立ての背広に身を包み、下宿を後にした。
 道行く人がおはようございます、と挨拶をする。おはようございますと穏やかに返す彼は、春の木漏れ日にも似た綺麗な笑顔を見せた。
 青い空から降りそそぐ眩しい日差しに、まっさらなカーテンが揺れている。校舎の一番南側に位置する教室は、新一年生の学び舎だった。

「はじめまして。今日から皆さんを受け持つことになりました。平野啓司といいます」

 名前を呼びます、聞こえたら返事をしてくださいね――若い教師は顔を上げる。
 小さなきらきらした瞳に真っ直ぐに見つめられて、教師は幸せそうに微笑んだ。

――こうして彼らは、教師せんせいとなった。

(終)